1.仮説力(想定力)

 4月から営業に従事なさる方からご要望いただきましたので、販売技能を先に書いていきたいと思います。会社が大きくなればなるほど、情報活用力や行動力の面ではITやDXによりシステム化がすすみ、業績を左右するのは販売技能ということになります。では、少し遠いところから書いていきたいと思います。

 販売技能の歴史                                            営業現場で仮説力などといわれだしたのは、1980年代後半から90年代です。それ以前は仮説力など販売技能を考える必要なく、その場対応のヒアリングや、店舗販売でいえば、ご来店されたお客様にいきなりニーズを聞いてもいやがられず販売行動ができる時代であったからです。それは経済の歴史が大きく関係しています。

かなり遠い時代ですが、1945年終戦後の日本はモノが不足している時代であり、必要なものが顕在化していました。従って、ニーズのある商品を持っているだけで売れた時代でした

 1950年代に入り、復興まで戦後20年の時間を要すると予想されながら、1957年の経済白書の序文にかかれた「もはや戦後ではない」の文言の通り、日本経済は飛ぶ鳥を落とす勢いで発展しました。                                         その要因として白物家電の爆発的な消費があげられます。その中でも3種の神器の一つである電気で冷える箱が爆発的に売れました。電気冷蔵庫です。では、ここに仮説力などの販売技能が使われていたのでしょうか。ほぼないと言えます。電気冷蔵庫のない時代であれば「電気で冷やせる箱があるよ」と商品内容を叫べば誰でも売れる。モノがない時代にはそれだけで売れますから、販売しようとする相手に仮説など必要ないということはご理解いただけるでしょう。この時代は販売技能より販売代理店など売る場所を増やすことの方が重要でした。こうして白物家電といわれた三種の神器の一部である冷蔵庫に加え、洗濯機、白黒テレビが爆発的に売れた時代がありました。この時代はモノの魅力を説明する説明営業の時代でした。

1960年代に入り、モノが一般家庭に揃いだしてきた時代に突入しました。そこで、今度は各家庭に揃ったモノと比較して今持っているものより便利なもの、快適なものへと消費行動が移行していき、3Cといわれた新三種の神器のカー、クーラー、カラーテレビが爆発的に売れました。この時代でも仮説力などの販売技能は必要なく、商品の説明に加え、比較説明し、万人に対するメリットを訴求すれば売れましたので、強いていえば簡潔説明力、も必要かもしれませんがアプローチのための仮説力の出番はありません。営業が商品の説明し、他者やこれまでの自社製品と比較し、〇〇も使っていますよという集団心理を利用をすれば誰でも売れますから、強いて売れない営業の原因と言えば、「やる気とか根性」でしょうか。だから、この時代に20代だった営業マンが20年経ち1980年代に40代の課長になって、時代にアジャストできずに管理職になると「気合と根性」を唱えるマネジメントになってしまったのでしょう。

時代は高度経済成長期の安定期いわゆるバブル景気に突入すると、誰よりも新しいモノへの執着、つまり流行・トレンドや誰よりも高価でラグジュアリーさを感じることができる高額な車・不動産保有などによるステイタス、高額な飲食、旅行などの無形商品の贅沢が消費の中心になった時代にようやく仮説力が顔を出し始めます。

〇〇を経験すれば・〇〇を手に入れば、〇〇を追い越せる・TOPになれるなど高価でステイタスのある有形無形のものを手に入れた時の成功観などをイメージさせられることによって、湯水のようにお金を使っていく人々も少なくなかったでしょう。

しかし、ここで申し上げたい仮説力や想定力というのは浮かれた時代のまやかしのようなものではなく、お客様の課題を抽出し、よりよい提案のためのヒアリングへと結びつける手法のことを指します。こうした仮説力が必要とされたのはバブル経済が崩壊し、失われた10年といわれた90年代、コスト管理が厳しい中でいかに相手にとって問題・課題などの解決により相手に利益をもたらすのかということが必要となり、仮説力を高める必要性が出てきたため仮説力研修などが注目を集めたこともありました。

具体的な仮説力、想定力の事例

販売スタッフの場合・・・・お客様の服装、身に着けているもの、化粧の仕方、色合いなどから、ニーズや好みを想定して声かけやヒアリングをする。しかしながら「よろしかったらご覧ください」「よろしればご案内します」こんな声かけではお客様は逃げてしまいます。               例えば携帯ショップの販売の場合、お客様がスーツを着て小さ目の車付きのスーツケースで入ってきたときに「いらっしゃいませ何をお探しでしょうか」携帯ショップに来ているのだから携帯または関連したものの購入か相談にきているので、「今日はどのようなご相談またはご用件でしょうか」のほうがまだよいかもしれません。                                   良い例としては前述の服装であれば、「お仕事のご利用ですか?」スーツ姿で出張かプレゼンのために荷物をもっているであろうスーツケースからの想定としては業務に使用する可能性を基にヒアリングするのが妥当です。もちろんスーツ姿で来たものの、仕事の合間をみて私用で使う携帯について来店したのかもしれません。しかし、想定が間違っていても、間違ったことによりヒアリング内容が絞られ何をヒアリングしたらよいのかが、より明確になってくるので、想定力は間違っていても展開は進み、成功になるのです。こうしたお客様想定力は商品が有形であろうが無形であろうが対面でものを販売するという場面では、何をヒアリングしたら良いのか次の展開を明確にし、その後の有効な提案に結び付けることができます。

お菓子販売員の実例                                      先日、お世話になった方へお礼を考えて、相手がお返しを考えなくても良い程度の重すぎないお菓子を探しておりました。チョコ好きという情報だけを得ていたので、チョコ商品のあるスィーツコーナーを見て回っていたところ、とある有名スィーツの店員さんが、こんな声かけをしてきました。    「期間限定商品やお日持ちのご案内させて頂きます」他にお客様がいなかったので、私にいっていることは明らかで、血が騒いだ私はその声かけの背景について伺ってみました。すると、「お客様の視線が大箱商品にいっているように見えたので、贈り先人数と食べきれるかを考えているかもしれないと思い日持ちの文言で声かけをしました」とのこと。歩いている時間は3秒くらいでしょうか、歩きながらの視線の先、そこから想定されることから、一瞬で声かけをすること決めたのです。想定はどんぴしゃりではありませんでしたが、声かけの疑問以外に商品に興味をもったのも事実なので、観察ではなく洞察から想定し声かけから私の足を止めてみせた実例でした。

※因みに観察と洞察の違い                                           観察のみで考えない声かけ・・・お客様が通っている➡定番のご案内ご相談承わりまーす。          洞察から想定した声かけ・・・お客様の視線が大箱商品にいっている、送り先人数と食べきれるかを考えているかもしれない➡日持ちの文言を混ぜて声かけしてみよう

観察(動作を見ているるだけ)洞察(動作を見て目的まで考える、本質)の違いが声かけに表れる事例でした。

営業の場合・・・・・・・営業の場合は販売と少し違います。簡単にいえば、何が課題なのか仮説をたててから企業にアプローチすることです。ネットのない時代は会社のパンフレット、求人広告など紙媒体などから沿革、売上推移、主力商品、従業員数、業界での立ち位置などから、課題を想定したわけですが、ネット社会の昨今では、様々なところから情報を引き出すことができるのでネットのない時代から比べると、企業の抱える課題は抽出しやすく、SNSなどのアプローチ方法があるので昔ほどストレスなくアプローチできるでしょう。

仮説のきっかけ、思考のはじまり1、人材ビジネスの場合、アプローチしようとする企業が業界2位という場合、TOPのシェアを取っていくことは大きな社命です。ということは従業員に必要な資質とは何か、求人広告の出稿頻度が高ければ、必要としている人材が採用できていないので、できていない理由の仮説をたて解決の指針をもってアプローチしていくというのも一つでした。

仮説のきっかけ、思考のはじまり2、4月にハラスメント防止法が施行されますが、世の中全体が変わる際は、どの企業も自社の対応に不安はあるはずです・・・年代によってハラスメントの意識や思い込みは違うのではないか?ということは、どんな業界を優先的にあたっていけば、ターゲット企業と似た年齢構成、組織課題の事例などを仮説と共に事前準備をします。このように世の中の共通の変化には共通の課題が顕在化しますが、会社の業態や年齢構成など内容によって違うので、ターゲット企業の類似事例をツールに仮説をたてアプローチをしていくと有効になっています。

仮説のきっかけ、思考のはじまり3、景気の良し悪し関係なく営利団体に必要とされる仮説。それは新規顧客の開拓です。今はSNSを利用したこれが一番多いかもしれません。(手法はこのあとのアプローチのパートで触れます)

このきっかけの例のように、仮説力・想定力は、1つの企業に対しての仮説もありますが、世の中の共通変化に抱えそうな課題の仮説をたてることや、営利団体であれば新規顧客獲得など普遍的な課題を仮説にし、解決の指針を示すなどのパターンでアプローチやヒアリングに繋げていくことが、よりよいアプローチ、営業プロセスへと通じていきます。

恐らく、これだけを読んで仮説力の理解はできても仮説が立てられないという方もいらっしゃるでしょう。仮説力は、情報収集、精査、検討、可視化することでトレーニングできます。ご経験や業界の知識が豊かな方はあっという間にできるようになると思います。しかし、トレーニングをする場合は、年齢・年次の違う複数の人数ワークを行う事をお薦めします。

実は飛び込み営業にも使えます。ご経験や知識のある方は、最近は、できる人が少なくなったことや非効率という評価により少なくなったようですが飛び込み営業にも使えます。個人的に受注したことも少なくありませんでした。例えば、求人の営業マンに時間ができたので工場街にある中小の運送会社に飛び込むことを決めるとします。スマホがない時代の場合、仮説をたてるといっても会社の外観や中にはいってから得る情報から仮説をたてなければなりません。(現代でtp彦三をするならスマホで簡単に情報を仕入れることができますが、飛び込みの場合の情報収集は洞察とスマホのハイブリットにしたほうが効率的でしょう)

観察情報:                                        

A情報会社の車庫を見るとトラックが3台駐車、B情報玄関先や洗車場が散らかっている                          C情報 飛び込んで社長の在社を確認すると、「いつも忙しくて会社にはいない」という情報、D情報社長は夕方には一旦帰ってくる、E情報事務員が受付、事務、配車をやっている。

このように飛び込み営業の場合は接触しながら得た情報で仮説をたて、次回訪問したときのために揃えるべき情報や提案をイメージしヒアリング、再訪しやすくします。

ここまでの接触で得た情報と洞察たてられる仮説は                               A情報からは通常運送業は、事故などがあった場合に対応するため最低1台はキープしておくが3台あるので仕事がないのか、車はあるのに運転手が採用できずに余っているのか、前者であれば営業ニーズについてのヒアリング、後者は、運転手ニーズへのヒアリング                    B情報からは管理職がいない可能 、                              CとD社長が営業か社長自身が運転している可能性                        Eは事務系の人でも足りず、事務も本来の仕事以外のことをやらされモチベーションが下がっている可能性などの仮説からヒアリングしたい内容が決まってきます。

情報から仮説のまとめると、社長自身が営業か運転にまわっているため、会社の管理が行き届かず、内勤にもキャパオーバーしている可能性があるのではないかという仮説。

ここから考えられるリスク、仕事のできる事務を頼りすぎ離職、社長が事故を起こした場合、会社が崩壊しかねない、ノーマネジメントから運転手のモチベーション管理ができず離職につながったり、職場の人間関係を構築できない。

更に考えられる提案とその後の展開やメリット                               顕在化したニーズから応急処置として、顕在ニーズの運転手の募集の成功のための採用戦略戦術の提案、これによって社長が運転手をやめて会社でマネジメントと配車を行える、更に事務も本来の仕事に集中でき、離職する可能性が低くなる。この程度であればヒアリングしながらシナリオが描けるのです。あとは潜在的ニーズを掘り出すために社長に直接会い、本来はどうしたいのかという本質的ヒアリングから理想と現実の差をヒアリングしながら潜在ニーズなど、アプローチを経て提案のためのヒアリングへと移っていきます。

※余談ですが、このあとの展開では2パターンあります。                    1.小さく顕在化ニーズを刈り取り受注し本質的な課題を解決するヒアリングし、あとで提案するパターン                                             2.最初に仮説からヒアリングし、まとめて包括的で潜在的な課題についても抽出し解決する提案する2つのパターンにわかれますが個人的には前者が多かったと思います。

上記のように業界の知識があるからこそ仮説が立てられたわけですが、それは経験とトレーニング次第です。トレーニングの詳細については、取り巻く環境や商品、顧客層によっても違うので詳細は個別にお問い合わせくださいませ。仮説力、想定力はここまでとします。

仮説力の本質はかもしれない発想ですので、アプローチからヒアリングに繋げるだけでなく、プレゼン時の反論の仮説、クロージングの抵抗の仮説など営業プロセスの中で応用することができますので磨いておいて損はないスキルと言えると思います。

次はヒアリング力について書いてまいります

根本 豊